講演会「グローバライゼーションと企業経営」 シリーズその1:「エアバスの戦略と日本」

日仏経済交流会(パリクラブ)主催
在日フランス商工会議所(CCIFJ)共催

エアバスは日本ではあまり知られていないようです。フランスでよく乗ったエアバスは日本国内ではほとんど目にしません。フランスで組み立てていることを知っている人も、部品の製作国になると自信がないようです。日本企業もその一部を作っています。

最近ではグローバルな市場でエアバスがボーイングと激しく競争し、中国やインドなどでの大量受注が大きく報道されています。グローバル化が進む世界 の中で、エアバス社がどのような経営や活動をおこなっているのか、また日本市場での販売や産業協力の今後はどのようになっていくのか。日仏のパートナー シップ促進のための障害と課題は何か。日本が航空機製造を強化するには何が必要か。

昨年2月にエアバス・ジャパン社長に就任された米国出身のグレン・フクシマ社長とフランス出身で日本企業との産業協力を担当しているJAMES氏にこうした問題意識に答えたお話をしていただきます。

日時 2006年4月17日(月)18:30~21:00
会場 メルシャンサロン
スピーカー ■グレン・S・フクシマ氏
エアバス・ジャパン(株)代表取締役社長(講演は日本語)
■ブリュノ・ジャム氏
エアバス・ジャパン(株)サプライヤ・コーディネーター担当ディレクター(講演は日本語)
モデレーター ■上田忠彦氏
パリクラブ理事 元丸紅フランス会社社長 現東京都環境衛生公社参事
スピーカー略歴

グレン・S・フクシマ氏:米カリフォルニア出身 ハーバード・ビジネス・スクールおよびロー・スクール卒。USTR(米国大統領府通商代表部)、日本AT&T副社長、日本NCR共同社長、在日米国商工会議所会頭などを経て、05年2月より現職。

ブリュノ・ジャム氏:フランスSUPAERO卒 日本航空宇宙技術研究所,SNECMA(エンジンメーカー)を経て、エア バス社に。SNECMAで日本企業とのエンジニアリング協力、エアバスでA380についてのアジアでのパートナーシップ、エンジン調達などに従事し、 2004年9月より現職。

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1.グローバライゼーションは様々な形で企業や個人の活動に影響を及ぼしています。中国、インド、東欧などにおける経済の高成長によって、世界の企 業市場はグローバルに急拡大し、世界的なベストセラーのタイトルで有名になりましたが、ITの発達の結果「世界は平ら(The World Is Flat)」になっています。国境を越えた合弁やM&Aが活発化し、フランス企業はその先端を行き、日本企業も今後はM&Aを積極的に活用しようとしてい ます。われわれの関心は、国際的な企業の国籍とは何か、投資先国の多様な文化をどのように考慮するべきかなどにも及んでいます。

0417-airbus-2_gd2. パリクラブでは、「グローバライゼーションと企業経営」とのタイトルのもとで、企業はどのようにグローバルな戦略を展開しているのか、そしてよりひろくグ ローバル化を理解し、日仏のパートナーシップを考える参考にするために、シリーズでの講演会を企画しました。今回はその第1回目として、エアバスの戦略と 日本での活動について、エアバス・ジャパン(株)代表取締役社長のグレン・S・フクシマさんと同社サプライヤ・コーディネーター担当ディレクターのブリュ ノ・ジャムさんに講演をお願いいたしました。お二人からは日本語で、たくさんのスライドを用いて、エアバスの歴史、エアバス航空機の特長、日本市場での販 売状況や日本企業との生産協力について、体系的でたいへん分かりやすい説明をしていただきました。その後、共催者であるフランス商工会議所メンバーや航空 産業関係者も含めた50名の参加者が、エアバスの本社に近いラングドックのワインを片手にお二人を囲み、質問や歓談をするうちに、メルシャン・サロンでの 夜はふけました。

3.主催者の立場で印象深く聞いた点を以下まとめておきます。

  • 1970年にエアバスが仏独のコンソーシアムとしてフランスに設立された時点では、欧州市場は米国のボーイングやダグラスなどの寡占状態 で、欧州メーカーのシェアは16%でしかなかった。74年にA300がデビュー、その後88年に出したA320、次の A330,A340が電子機器を使った操縦性、座席の広さなどで評価され、95年にはエアバス機の受注残シェアは世界の3分の1に、そして最近では受注・ 引渡し・受注残いずれでも50%を上回り、ボーイングを抜きトップに。
  • 会社の形態は企業連合から株式会社(EADS80%,BAE SYSTEMS20%)に変わり、フランスなど欧州各地で計16箇所の製造 拠点、設計技術センター7箇所、事務所は82カ国で160箇所。従業員数は5万5千人。80カ国以上の国籍で、20の言語を使用。経営陣はCEOがドイツ 人、COOは2名でフランス人とアメリカ人、ボードメンバーは欧州4カ国と米出身。このように人種・文化的な多様性に富んでいる。
  • 最新の超大型機A380は座席数450-550(全部エコノミーだと853)、21世紀の航空機として、開発後37年たっているボーイン グのB747に比べて、広く、高い運航性能で、経済的で、静か。現在16社から159機を受注済みで、2006年にシンガポール航空に2機引渡し予定で、 その後シドニー・ロンドン・成田を飛ぶ。アジア太平洋では他にインド・タイ・マレーシア・韓国・中国・オーストラリアから受注済みだが、日本からはまだ注 文がない。2010年には成田に週60便のA380が乗り入れてくる予定。エアバスでは現在新型のA350を開発中。高性能素材の採用で軽量化をはかって おり、今後B787との競合機になろう。
  • エアバスの日本市場でのシェアは2000年から2004年で4%。中東アフリカ83%、欧州62%、アジア太平洋55%、アメリカ(北中 南米)49%と比較して、極めて低く、ミステリーである。2005年の受注機数をみても、インド・マレーシアから288機(マーケットシエア75%)、中 国から219機(62%)を受注したのに対して、日本は全部で94機発注しているうちエアバスは4機でしかない(4%)。内訳はANAにA320を3機、 佐川急便にA300-600を1機。
  • エアバスは日本市場開拓のために2001年にエアバス・ジャパン社を設立し、USTRで活躍し、米国企業の日本法人トップや在日米国商工 会議所会頭の経験のある米国人のフクシマ氏が昨年2月より社長に就任している。フクシマ氏によれば、4%のシェアはノーマルではなく、今後引き上げの可能 性が期待されている。エアバスはコスト・パフォーマンスの高さが着目されており、既に佐川急便が購入したほか、最近ではスターフライヤーがA320で羽田 と北九州空港のサービスを開始した。同氏は、日本の航空会社は長くボーイングを使い、ボーイングを評価しているが、エアバスの持つ技術的な高さも考慮し て、ふたつを使用していくべきであろうと述べている。
  • 日本の航空宇宙産業は110億ドルの規模で、その8割を宇宙と機体とエンジンの3分野をてがける重工業4社(三菱・川崎・石川島播磨・富 士)が占め、そのほかに機体、装備品、内装部品・タイヤ、素材メーカーがいる。これらの会社は独自の技術で国産機(YS11やF2)を開発しているほか、 エンジンや航空機の国際プロジェクトで共同開発をし、一定の割合のリスクを分担している(ボーイングB787では翼などで日本企業のシェアは35%)。
  • エアバスは欧州4カ国が中心だが、それ以外の国のメーカーとリスクを分担し、またエンジンや設備・装備品・部品・素材を外部(9割以上は 欧米メーカー)から調達している。日本企業はA380では21社が装備品・部品・素材などを供給している。今後欧州と協力体制を確立することで、日本企業 は文化の差を認識しつつ、アメリカ中心主義から離れ、リスク分散を図り、新しい技術を培うことが期待される。そのためにはエアバス側としても下請けから パートナーシップ育成という考え方に変え、部品だけではなくより大きなコンポーネントを外注する必要がある。なお、日仏の航空宇宙工業会の間では昨年6月 に超音速旅客機に関する研究協力が開始している。

4.最後に報告者として感じたことを述べます。日本企業によるエアバス購入拡大は、長年の間フランスを中心とする欧州側の強い希望でした。欧州側は 技術的にも優れた航空機が何故日本にだけは売れないのか不思議に思っていたものの、木内元大使がコメントされたように、これまで政府のトップ・レベルでは 強く働きかけをしなかったようですし、企業としての販売姿勢もいまひとつだったようです。日本側では米国との外交・軍事関係を重視してきたことや、日本企 業が開発・製造に参加するボーイングを優先したという事情もあったようです。米国企業は早くから日本市場に重点を置いた強力な営業活動をおこなってきたこ とも聞きました。フランスをベースにエアバス機を頻繁に利用してその快適性や良さを感じた一人のビジネスマンとして、今後日本でもコスト・パフォーマンス や利用客の快適さ、環境への影響などを考慮に入れた航空機の選択がおこなわれ、エアバスの最新機にのれる機会が増えることを期待したいと思います。それが 開発・製造面での協力拡大にもつながっていくのではないでしょうか。 これまでエアバスは日本のなかでは知る人が限られていたのも事実でしょう。フクシマさんが最後に述べられていたように、今後エアバス社が3つ の”relations”、すなわちgovernment・public・human relationsを強化することで日本市場でのエアバスの認知度が高まり、具体的な成果につながることを祈りたいと思います。

(文責 経済社会委員長 久米五郎太)

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