デバ「中国、その機会とリスク:日本の視点、フランスの視点」

日仏経済交流会(パリクラブ)主催
在日フランス商工会議所(CCIFJ)共催

0308-chine-1急速かつダイナミックな成長を続ける中国。2005年のGDPはフランス、イギリスを抜いて世界第4位になった模様であり、2008年の北京オリンピック、 2010年の上海万博などを控え、今後も高い成長率を維持するものと期待されている。日中関係は現在ややデリケートになっており、事実日経や読売新聞の調 査によれば、現在約70%の日本人は中国を信頼できないと言っている。一方仏中関係は良好に推移しているようである。今回のデバでは、こうした中国の「機 会とリスク」は何かと言うテーマで日仏の二人の専門家、みずほ総合研究所、チーフエコノミストの中島厚志氏、在日フランス商工会議所会頭でトタル社北東ア ジア代表のユベール ド・メスティエ氏にそれぞれの視点でお話頂いた。基本的な問題意識は次の二点である:「既に表面化している経済成長制約条件、例えば 環境問題、資源不足、著しい地域間格差などを踏まえても、中国は2010年以降、引続き高度成長を維持できるか?」「現在『世界の工場』といわれている中 国は今後『世界の市場』となり得るか?」

日時 2006年3月8日
モデレーター 沢田義博氏
パリクラブ理事、富士投信投資顧問、常勤監査役
 

【みずほ総合研究所、チーフエコノミストの中島厚志氏のプレゼンテーション】

0308-chine-2まず、中島氏は、現在中国が抱える問題点を次のように指摘された

  1. 大幅な対米、対EU輸出超過。今後、貿易摩擦の先鋭化が予想される。なお。対日輸出入はほぼバランスしている。
  2. 中国国内の大幅な地域間格差。例えば上海と貴州省の一人当りGDPは15倍の差がある。また都市部内でも貧富の格差は年々拡大している。
  3. 中国経済の外資系企業への過大な依存。特に貿易の60%、工業生産の40%は外資系企業が行なっている。
  4. 人民元については、依然として管理された相場であり、資本移動も認められていない。先進国並みの変動相場制、資本移動の自由化移行までには、まだかなりの時間を要する。
  5. 日本企業の対中投資は鈍化傾向にある。従って、中国の成長力は潜在的には十分あるものの、上記の問題点を解決して行かないと、今後、特に2010年以降、高い成長率の維持は困難であると思われる。

Q1(沢田氏):現在中国は「世界の工場」と言われているが、今後「世界の市場」になり得るか?
因みに、野村資本市場研究所の関志雄氏は、2004年の中国の市場規模は北米市場の28%であるが、2010年には38%まで拡大すると予測している。

A(中島氏):今後は内陸部の貧困層(9億人)と沿海部の中間層(4億人)以上の層の二極分解が強まり、後者について言えば、相当程度の消費マーケットになり得るのではないか。

 

【在日フランス商工会議所会頭、ユベール ド・メスティエ氏のプレゼンテーション】

ド・メスティエ氏はご自身の中国駐在経験、その後の中国とのビジネス経験をベースに中国に対する視点を説明された:中国は改革開放政策が奏効し、順 調に高度成長を続けており、世界経済及び世界貿易におけるシェアは近時益々増大中。2001年にはWTOにも加盟し、グローバル経済に参画する努力をして いる。しかし一方では、貧困層も拡大。失業者は1億人超である。

更に、フランス企業の具体的な成功例として、TOTAL社(大連の精油所等で、総投資額10億ドル、年商10億ドル以上等々)等のケースが取り上げ られた。失敗例として、広州のLNGターミナルプロジェクトがあり、このプロジェクトは土壇場で、政治的な理由で中国政府により一方的にキャンセルされ た。

次に中国のエネルギー事情について、詳細な説明がなされた:

  1. 現在は石炭の消費が圧倒的に多く、エネルギー消費全体の3分の2を占めている。
  2. 今後は石油と天然ガスの消費シェアが徐々に高まる傾向にある。2000年の両者合算ベースの27.2%から2020年には32.2%に高まると考えられる。
  3. 今後のエネルギー消費量については、原油換算で2010年には2000年の1.5倍、2020年には2.2倍に急増する見込み。
  4. 電力については、2003年より発電所の増加を急速に進めており、電力不足の緩和に努めている。

結論としては:中国を飛行機にたとえると、有能なパイロットは確かに存在しており、外貨準備高は今後も急速な増加を続け、日本の水準に近づくだろう。また、中国経済は2010年までは好調を維持し、エネルギー消費の増加は外国企業に対しビジネスチャンスをもたらす。

一方問題も多い、政治の経済に対する影響が依然として大きすぎ、地域間の格差も余りに大きい。今後も共産党一党独裁の政治体制が続けられるか?或いは、貿易及び外国からの対内投資の増加が今後も続けられるか?さらに環境汚染問題、特に飲料水不足も深刻である。

Q1(沢田氏): 中国は今後も高度成長を維持できるだけのエネルギーを確保できるか?

A(ド・メスティエ氏):原油の輸入が今後益々問題となろう。アジア最大の輸入国である日本にとっても供給先確保と言う点では競争相手になるだろ う。中国の原油輸入システムはまだ不完全で、今後原油輸入ターミナルやパイプラインの建設を急がねばならない。いずれにせよ、世界経済にとってはインフレ 要因となる。

Q2(沢田氏):英国の雑誌“The Economist”の元編集長ビル・エモット氏は最近の著書「日はまた昇る」(”The Sun Also Rises”)の中で、中国と日本をイソップ寓話のうさぎと亀にたとえ、もし日本が堅実で、繁栄を続け、かつ信頼できる亀である事を示せば、将来の中国と の競争に勝利するだろうと言っています。 コメントは?

A(中島氏):日中両国とも大きな課題がある。中国は今後、現在の高度経済成長を維持するのは難しいかもしれない。特に地域間の大きな格差から生じ る社会不安を回避しつつ、経済構造を内需中心に変えて行かざるを得ないだろう。一方、日本は人口減少社会にはいり、企業は技術進歩による生産性の向上を今 まで以上に図る必要がある。

A(ド・メスティエ氏):中国の成長率は確かにうさぎのように速いが、それは発展途上段階の低い水準からの成長だからであって、成熟経済の日本の場合は低成長でも、増加額は極めて大きい。従ってまだ比較にならない。

Q3(沢田氏):中国において、日仏両国は今後どのように協力を更に深めて行けるだろうか?

A(中島氏):過去、日本企業は中国とのビジネス経験の深い台湾企業と共に中国進出を行なったが、今や、同じ事をフランス企業が日本企業と組んで行なえるのではないだろうか? 更に販路を有する日本企業と技術力のあるフランス企業の連携も考えられる。

A(ド・メスティエ氏):既に1980年代にTOTAL社と出光等の日本企業との中国南部での油田開発の成功例がある。同様の連携を中国における生産などで行なう事は十分に可能である。

 

【フロアとの質疑応答】

Q1(ESSEC大学、ローラン・ビバール氏):今後、中国が“世界の市場”になる為にはどうしたら良いか?

A(中島氏):中国全体が世界の市場となる事はあり得ない。一つの方法は、内陸部の貧困層に移動の自由を与え、沿海部に住まわせる事であるが、これ はそう簡単ではないだろう。また、現在の共産党の一党独裁下では、連邦制も難しかろう。また、今後「世界の工場」としての中国の機能が益々発達すると、結 果的に人民元の切上げを余儀なくされ、輸出が難しくなり、内需を大幅に拡大せざるを得なくなるのではないか?

Q2(東京大学、池上久雄氏):中国の法制度や会計制度の未整備のため、多くの日本企業は困難を経験してきたが、TOTAL社は成功を収めている。TOTAL社の場合そうした困難には遭遇しなかったのか?

A(ド・メスティエ氏): 奇跡をもたらすような秘訣は特にない。中国でのビジネスは大変難しいと考えている。失敗しているフランス企業の例も数多くある。中国で巨富を築いたフラン ス企業は未だないと思う。これが現実である。ただ、自動車や船舶の製造は今後徐々に中国で行なわれるようになるのではないか?

Q3(ドイツ証券、高橋衛氏):ベルリン・オリンピックの8年後、モスクワ・オリンピックの8年後にはそれぞれ大きな政治的な変化が起きている。北 京オリンピックの8年後にも大きな変化があると仮定するならば、また既に指摘されている様々な課題を解決する為には、現在の市場経済的共産主義の中国型と 民主主義かつ資本主義の日本型のどちらがより適当か?

A(中島氏):中国のような発展途上国と異なり、先進国の殆どが民主主義国家であり、比較的高い成長率を維持している。中国の場合もある時点で政治 体制を民主化することが必要となろう。そうすれば、社会的な不満もより吸収しやすくなるはずであり、かつ相応の経済成長も期待できるだろう。

 

【在日フランス大使館経済部 経済公使 ジャン-イヴ・バジョン氏によるまとめ】

1.日本:強みとしては、

  1. 対中輸出、対中投資はフランスの10倍である。
  2. 歴史的には総合商社が市場開拓に努めてきた。
  3. 資本財に強い。
  4. 日本製品の品質は高い評価を得ている。などが挙げられる。

弱みとしては、

  1. 政治、外交関係
  2. 日中国民の気質が著しく異なる事。

2.フランス:強みは、

  1. 政治、外交関係が良好。従って航空機、通信、輸送などの面で成功を収めている。
  2. フランス人の気質と似ていて、よく理解できる。

弱みは、

  1. 資本財に弱い、
  2. 中国の市場は未だ、フランスが強みを持つ消費財市場にはなっていない事である。

本日のデバで、中国には多くのリスクや課題がある事が分かった。例えば環境問題、通貨制度等である。我々皆が中国に対しては懸念を持っている。しか し、中国は当面成長を続けるであろうし、その潜在力は依然として大きく、引続き様々な機会を提供してくれるだろう。日仏両国はその相互補完性に着目し、今 後も大いに協力できるのではなかろうか?

レポート:パリクラブ理事、沢田義博氏