日仏シンポジウム『自由が丘の景観を考える』報告

Jスピリット社主催、パリクラブ共催

1019-jiyugaoka-1美しい町並みとは一体どういうものか。快適な都市空間を作っていくにはどうすればよいか。自由が丘が10年来友好関係にあるエックス・アン・プロヴァンス市 市長代行ブリュノ・ジェンザナ氏の来日を機会に、都市景観についてのシンポジウムをJスピリット社(*)主催、パリクラブ共催で去る10月19日、日仏会 館で開いた。台風接近の悪天候にもかかわらず、多くの聴衆の参会があった。
(*)自由が丘地区の企業や振興組合などが株主となり、中心市街地活性化法にもとづいて、街づくりの一元化をすすめている第3セクター特定会社。目黒区も株主の一。

日時 2004年10月19日
場所 日仏会館

パリクラブ会員でもある脇るみ子さんの司会で始まり、渡辺Jスピリット社長の挨拶があった。そのあと当クラブ副会長であり、自由が丘日仏協会会長の関本勘次氏が奨学制度などエクサンプロヴァンス市との緊密な関係を説明、歓迎挨拶をした。

つぎにジェンザナ市長代行が基調講演を行った。以下その要約:

『本日は地域開発といった直接の主題でなく、むしろ哲学的命題をお話ししたい。つまり市街地の魂の脆弱性についてです』ということで、中心市街地は 都市の心臓という機能的な象徴であるばかりでなく、都市の魂である。それが或るときは危機に瀕することもある。エックス市も例外でなく、多くの問題を抱え ていた。フランスの他の都市と同じく、19世紀末から20世紀初頭、驚くべき人口増加をみた。それ以前にあった中心地の住民の等質が崩れていった。財政的 余力のある中心地住民は、緑地や空間がどんどん狭められるのを嫌って、旧城壁の外へ移り住んでいった。中心地の社会的均衡が崩れ、窮乏化した。これに対し て最初は無干渉であった。その結果不動産商業財産の価値の低下が促進された。

これを回復するためには、あらゆる段階での協調、すなわち国と県と市の連合が必要であった。その具体的手段として『経済混成会社』Societe economique mixteを発足させた。一方アパート・商店主へも再生の試みを要請した。そして市の建物の改装や移転を率先して行い、国に対して高裁の移転拡張を求め た。地域上に明確な行動地帯を定め、建物の美的枠組みを規制することを建築専門家に委ねた。国からの援助を得て、個人所有の建物で近代生活に不適合なもの の改修には、さきの経済混成会社が担当した。こうして15年前には20%の空き家のあった中心地を回復出来た。

駐車場の完備(3000台)。ストリートイベントの開催。クリスマス期のマルシェ(市場)や音楽週間(多くのツーリストを誘致した)。

最後に商業地の質の改善については、看板や展示物などの問題を解決するために、関係者の間で『品質の憲章』Charte de qualiteを作り、個人主義の多い商店主との交渉・対話をしてきた。長い時間が必要。

市街地の衰微の不運を嘆くことなく、長い時間をかけて改善していくことが必要である。

青木英二目黒区長のあいさつ。地域活性化のための目黒区も株主となっている(株)J スピリットと国土交通省の肝いりで始めるトランジットモールについて言及があった。

1019-jiyugaoka-2休憩のあと、石川忠氏(一級建築士)のエックス市街地と自由が丘の比較を述べられ、いままでの都市計画のひずみ(道に沿ってファサードを揃えるalignement)や最近の景観法による看板規制などに言及された。

パネリストの長谷川博士氏(日本色彩学会理事、日本ペイントデザインセンター所長)は映像により、小布施町の各店が自己主張を控えて、色書体を統一 した看板をもって町作りに成功している例を示した。一方背景に日本アルプスを抱えていながら各人が目立ちたいと看板を掲げている白馬村のイメージダウンの 実例を示した。

次のパネリスト・舩橋晴雄氏(エコノミスト、元国土交通省審議官)は自由が丘の『自由』から発想して、都市を作るものは市民社会であり、市場経済である。それらが町に魂を吹き込むという話をされました。
そのあとパネルディスカッションに移り、以下の主題が話し合われた。

  • 歴史都市の景観問題。これはジェンダナ市長代行の話のなかに出てきている。
  • 現代都市の景観問題
  • 都市計画の多様性と混乱から秩序へ
  • 自由が丘の景観形成
  • 住民参加

議論は多岐にわたり、そのすべてを収録するわけにはいかないが、最後に住民参加が官と民、あるいは公と私について話し合われた。公権力がフランスの 都市を作り上げた例をオスマン男爵のパリ都市改造。これに対し舩橋氏は『今や源泉は市民にあり。パブリックを意識する市民こそが都市に魂を吹き込む』と発 言した。

小杉隆衆議院議員からシンポジウム閉会の挨拶。ビュッフェに移り自由討論。